【小説】Clash of Clans〜未来の記憶〜

タイトル

 

 

 

「よし、バーバリアン6031番! こっちへ来い!」
「ふう、はあ……はっ、はい!!」

 息切れ紛れに返事をし、小走りに教官の元へと向かい、教官の目の前に背を向け佇む。

 そんな私の背中に教官は両手を添えると共に言葉を発する。

「アーミーキャンプで待機だ」
「はい!」

 ここでの待機とは、訓練卒業を意味する。

 私の返事を確認すると、教官は添えておいた両手で背中を押す。

 これは、厳しい訓練に耐えた若き訓練兵への期待を込めた教官なりの見送りなのだそうだ。

 押された勢いで、身体のムダな力が抜けた気がして、私は軽やかな足取りでアーミーキャンプへと向かった。 

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 訓練を終えた者は"ユニット"と呼ばれ、戦場へと力を注ぐことになる。ただし、初陣のみ新兵バッジを付けなければならない。

 そして、アーミーキャンプとは、そのユニットが待機する控え室みたいなものだ。 

 そこには、既にユニットであり、ずっと背中を追い続けた私の父、ジャンクがいる。 

 剣を武器に相手の陣形をめちゃくちゃにしてまわる恐れ知らずのバーバリアン種族の中で、父は最も実力があり英雄視されていた。

 種族は他にも、弓を使い遠距離攻撃をするアーチャー、お宝の略奪しか頭にない疾走のゴブリンなどがいる。

「おい、シム!」

 そう私の名前を呼ぶのが、尊敬する私の父。全ユニットを束ねる隊長を任されている。 

「訓練卒業おめでとう」
「ありがとう、父さん!」
「もうすぐ初陣だな、気合い引き締めて頑張れよ」

 そう言う父だが、何故か目が悲しそうだった。

 この時の私はまだ知らない。

 戦うことが如何に残酷な光景を生み出すことかを。

 父は私をほんの数秒ぎゅっと抱きしめると、頭に一回ポンと手を乗せ、キャンプ中央にあるキャンプファイアに足を運んだ。

 父はキャンプ場を見渡し、全員揃っていることを確認すると軽く頷き、出撃の合図をする。 

「総員、ちゅうもーく!!」

 父の大きな一言で、アーミーキャンプで待機中のユニットの話し声が消え、一斉にキャンプ中央に振り返った。

 普段の優しくて素朴な父とは違い、隊長という威厳がより感じられた瞬間だった。

 「これより敵クランへの出撃にあたって作戦を説明する!」

 クランとはいわゆるチームである。

 クランは城状にできていて、この世界ではクランの城を破壊することで、生活資源の入手、はたまた復讐心や達成感が満たされると共に戦場での勝利を意味する。

 何もしていないのに、攻められ村人を殺され、やがて復讐者へと移り変わる。

 反撃したり平和な村を同じ目に遭わせたり、こうして戦争は生まれる。

 どこのクランが発端かは未だ分からず、この復讐の連鎖は止まらない。

 愛する家族や兄弟、友人など、人それぞれ守りたい者や生活の為に戦うのだ。

「今回は2つ隣のJスポットンというクランを襲撃する。
毎回そうだが、毎日新兵がオラん達のクランに参加する。新兵は初陣に限り遠距離からの支援をしつつ、先輩たちの戦い様を学んでくれ!」

 父は新兵である私たちに作戦命令を伝え終わると、一呼吸置いて今度は全体に向けて言葉を放つ。

「ただ好きな人を守りたい、という願いがきっと一番強いんだ。きっと、村を守りたいなんて思って村を守る人はいない。オラはそう思う」

 周りを見渡すと、皆の目が見開いていた。私もそうだ。

 正直、村の為ではない。好きな人の為。私にもいる。大好きな恋人や生んでくれた母さんが。

「全力で戦おう! 作戦は以上だ。高台に身体を向けよ!」

 皆が誰もいない高台に身体全体を向ける。

 「敬礼!!」

 一斉に敬礼をする──何の意味が込められているのか分からないが──これは出撃前の儀式だ。

 十秒程高台に敬礼をした後、再び父が合図をとる。

「さあ、暴れにいこう!!!!」
「おおおおぉぉ!!」

 皆が一斉に敵クラン"Jスポットン"に向けて走り始める。

 ついに始まるんだ。初めての戦いが。

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 今回の襲撃には多くの死者は出ないだろうと村の長老チーフが予測した。どうりで新兵バッジを付けたユニットが多いはずだ。

 ユニット員は、自分も含めバーバリアン25体、アーチャー12体、ゴブリン8体、計45体うち新兵19体。

 作戦通りならば、私たち新兵は遠距離支援ならびに戦闘学習。

 私が先輩方の少なさに不安を抱いていたちょうどその時、1体のバーバリアンが駆け寄ってきた。親友ライカンだ。

「おう、シム。いよいよだな」
「ああ」
「オラこの初陣で活躍して、うちの母ちゃんに自慢すんだ」
「オラもだ」
「オラの母ちゃんな、オラに──」

 きっとこんなくだらない話をしているのは新兵だけだろう。

 先輩方はなんだか冷や汗をかきながら走っている。たまにチラッと新兵の様子を伺うと溜め息混じりに前へと向き直す。

 呆れているオーラが漂うその姿を後ろから見ていた私もライカンを肘で突っつき前に向かせて走ることに集中する。

 すると、次第に城状の建物が見えてくる。

 「止まれ!」

 隊長の指示により、残り4、5本の木を抜けたら敵の敷地内であろう所で皆が一斉に止まる。

 おそらく目の前に見える城が"Jスポットン"のクランだろう。

 「あそこの城がJスポットンだ。総員、息を整えろ」

 ゆっくりと深呼吸をして武器を手に構える。 その瞬間、さっきのおちゃらけのムードとは裏腹に妙な緊張感に身が包まれた。

新兵を始め、先輩方もまだ戦闘回数をこなしていないのか武者震いをし始めていた。

 その中でただ一人、剣を天へと掲げるバーバリアン、父さんだ。

 「皆にこの言葉を授けよう」

 全ユニットが静まり返る最中、自信げにそして笑顔でこう答えた。

 「毛は抜けても気は抜くな!」

 静寂に包まれるこの場所にいる者は、きょとんとした顔からみるみる内に頬が緩んだ。

 ああ、父さんは昔からそうだ。

 私が訓練に挫けそうになった時もお得意のオヤジギャグで元気付けるんだ。

 場が和み、さっきまで漂っていた緊張感がいっきに晴れた。だから隊長を任されたのだろう。

 「準備はいいな? 行くぞー!!」
「うおおおおおお!!!!」

 バーバリアン、ゴブリンの先輩方が先陣をきって駆ける。その後を私たち新兵とアーチャー部隊が駆ける。

 先陣をきった先輩方がJスポットンの敷地内に足を踏み入れた途端、大砲やアーチャータワー──俗に言う弓矢付きの見張り台──などの防衛施設がこちらを向いて反撃しだした。

砲弾や弓矢を数十メートルでなんとか避けつつ中央にそびえ立つクラン城に進撃する。

 Jスポットンは5メートルの壁で覆われていたが耐久性が低い為、バーバリアン部隊の一箇所集中攻撃で崩壊した。崩れた箇所から中央に潜入する。

 「さすが先輩! なあ、ライカン!」
「ああ! オラもあーなりてぇ」

 果敢に突き進む先輩方に感極まっていた時だ。急を抜くな! という父さんの遠回しの台詞をこのほんの数秒……私は忘れてしまった。

 「……痛っ」

 そして脚に走る痛みと共に私は下を見下ろすと、先端の尖ったそれは私の脚を貫いていた。

 「えっ……」

 もはや何が起こったのか分からない現状に驚きの一言しか出ない。

 「シム!! おい大丈夫か!?」

 尻もちを着いて脚を抱える私にライカンの叫びが響く。

 Jスポットンのアーチャータワーはそれにもかまわず矢を二人に向けた。 

「やばい、死ぬ! 殺される!!」
「くっうぅ……あああ」

 私たちの怯む声にためらいもなく狙いを定める。

 私たちに向けられる怒りや憎しみは、敵の村がもって当たり前の感情だ。

「もうだめだ……」

 しかし私が人生の終わりを悟った時、弓の弦を引いて放たれようとしたアーチャータワーが崩れ落ちた。 先輩方がアーチャータワーを破壊したのだ。

 「 一気に畳み掛けるぞおお!!」

 の掛け声で皆がクラン城へと突入する。

 ふと周りを見渡せば、既に大砲やアーチャータワーも破壊され、資源もゴブリン部隊の活躍によりすっからかんになっていた。

 「い、いける……! いけるぞ!」

 バーバリアンは剣を振りかぶり、アーチャーは矢を放ち、ゴブリンは殴りかかる。

 さすがのクラン城でもこれだけの一斉攻撃には耐えられず、あっという間に壊滅した。

 「よ……よっしゃあああああ!!!!」
「勝ったぞおおおお!!!!」
「うおおおおおお!!!!」

 勝利による歓喜のあまり、泣き叫ぶ者、抱き合う者、握手を交わす者などもいる。

 ただ矢に撃たれただけで何もしていない私も、この時だけは祝福のムードに乗り、隣のライカンと握手を交わした。

戦いを終えた私たちは、自分の村への帰路を歩いていた。いや、実際には私は歩いていない。

 脚に走る激痛で歩くにはとても苦しい私は、父さんに背負ってもらっている。

 そして、今日の自分の行動を告げて、ごめんなさい、と謝罪する。

 「そんなことはどうでもいい! いや、どうでもよくないが……お前が無事でほんっとうに良かった」
「…………」
「だが、その脚じゃ暫く歩けんだろう。完治するまで家で待機だな」
「はい……」

 父さんに促されるままに私は返事をする。

 初陣にして活躍せずに怪我を負い、しまいには待機命令が下る。なんてついてないんだろう。

 周りが歓喜で盛り上がる中、私はただただ呆然と地面を見つめていた。

+*+-+*+-+*+-+*+-

「ちょっとシム! あんた大丈夫なの!?」

 家に着くや母さんに心配される私。それは目に見えていたことだが羞恥心に駆られた。

 「まあでも、無事に帰ってきただけで嬉しいわ」

 今回の襲撃では、死人が少々出たものの、いつもよりは少ないという話を耳にした。

 私も危うく死にかけた身。だが、村は戦いの勝利と沢山の資源の話で持ちきりだ。亡くなった者の話など、その家族の者と一割の間でしかない。

【小説】Clash of Clans〜未来の記憶〜」への2件のフィードバック

    1. らむ 投稿作成者

      編集してこの記事に続編を書きますよ!
      ネタはあるし伏線も張ってあるので時間があれば書きます( ̄^ ̄)ゞ

      返信

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